良い器を使うと丁寧な子に育つ

僕が最初に開いたスタジオは神戸の元町にありました。​

そのスタジオは「トアロード・リビングス・ギャラリー」という工芸品などを扱うギャラリーの関連した場所で、同じ建物の中にありました。

ギャラリーのオーナーさんが使わせてくれていたのです。

そのギャラリーは特設展示会を定期的にしていて、知る人ぞ知る職人さんたちが出入りしていました。

僕は時間が空くとよくギャラリーに寄ってオーナーさんや職人さんたちとお話したりして過ごすことがありました。

ある時、漆職人の仁城義勝さんが来られていてお話しする機会がありました。

お話の中で僕に生まれたばかりの子供がいると聞くと、良い器を使うと丁寧な子に育ちますよ、と言われました。

僕は恥ずかしながらその時、「これら結構な値段の器を買ってもらいたいんだな」と勘繰って相槌を打つだけ打っていました。

それが、妻が「買おう」となって内心「えー!」と思いながらも結局好きにしてもらいました。

実は妻はそのギャラリーを手伝っていたことがあり、その時から結構な器を持っていて、僕と結婚してうちにそれらを持ってきていたのです。

さらに高尚な器が増えて、これらを日常使いするのには抵抗がありました。

何しろ洗うのもしまうのも慎重にしなければいけないので、僕は「面倒なことになったな」と思っていました(皿洗いは僕がすることが多いのです)。

さて、子供が3歳を過ぎると子ども園のみなし保育に参加できることになりました。

通っているうちに、うちの子が「丁寧にものを扱いますね」と園の方々から言われる事がしょっちゅうなのです。

見ていると確かにカスタネットを返却するとき、他の子が箱に投げ入れてガチャガチャしてても我が子は箱の底にそっと置いて戻ってくるのです。

そこでハッと気づいたのは、器の事です。

僕たち夫婦は、高価な器を日常的に使っているので、音を立てないようにゆっくりと丁寧に洗ったりしまったりしている。

それを子どもは普段から見ているので、それが普通になっている!

仁城さんの言われた通りだ。こういう事だったのか!​

背中に電気が走りました。まさに知恵者の教えです。​ギャラリーでの自分のケチな考えに恥じました。

そんなわけでうちでは今も結構な器を普段使いして、何より子供が丁寧に物を扱ってくれているので一生の財産を頂いたかな?と思いつつ、時には誤って割ったり欠けさせたりしてはショックで落ち込んだりしています。